


私たちの旅館がある姫路市の郊外は、土の匂いがするような鄙びた里で、自然以外には何もない田舎です。でも、私はこのふるさとが大好きで、自分が感じている“ふるさとのよさ”をわかってくれる人たちに、是非とも来てほしかった。そのためには旅行代理店に頼るのではなく、もっとユーザーの方に直接魅力を伝えていきたいという思いがありました。
しかし、どうすればいいかがわかりません。悩んでいたときに出会ったのが、ゴデスクリエイトの親会社である戸上通信システムさんでした。
その頃戸上さんは、国際観光旅館連盟のホームページを制作されていました。いまから10年以上も前のことで、世間ではまだパンフレットをそのまま写したようなホームページが大半を占める中、戸上さんは日本で最初にホームページから予約ができるシステムを構築されるなど、積極的にインターネットを活用していこうとされていました。そこが私の思いとピタリと重なりました。
「そうや、ホームページで集客したらいいんや」
その時からです。私と戸上さんの二人三脚が始まったのは。
プロのカメラマンを連れたディレクターが、私たちのところにやってきました。おそらく日本で最初にきちんと取材をして物語のあるホームページをつくったのが、うちと戸上さんのコンビだったと思います。題して「夢乃井物語」。すごく凝っていましたよ。お風呂のシーンなんて、本当に湯気があがるんですから。いま考えてもすごいものだったと思います。
ところが肝心の予約は、となるとさっぱりだめ。当時はまだまだ旅行会社主導で、インターネットを通しての予約は一般に普及していなかったのです。旅館の中は非難轟々。女将も社長も「本当に大丈夫か」と不安顔です。
でも、戸上さんも私も、いま思うと不思議なくらい強気でした。「いまにきっとインターネットから予約が入るのが当たり前の時代が来る。信じてくれ」。私はそういって社員を説得しました。そして、インターネットで予約して来られたお客様には、女将と支配人が挨拶に出向くようにしました。旅行代理店ではなくホームページを通して、自分の目で選んできてくださったお客様は、心底有難かったからです。
「お客様の声」をホームページ上に掲載したのも、直接お客様の意見を聞きたいという思いからでした。でも社長には激怒されましたねえ。「悪口が載っている」というわけです。
でも、頑張って謝罪や弁明の文章を書き込むことを続けるうちに、お客様にも誠意が伝わるのでしょうね、少しずつ予約が入るようになったのです。
その頃から、世の中ではすごいスピードでインターネットが普及しはじめ、誰もがネット予約をするような時代になってきました。私たちの旅館も順調にネットでの予約が増え、自信を得た私は、戸上さんの繰り出す“ネットをからめた新兵器”にどんどん乗っていきました。動画での館内紹介やオールフラッシュのトップページ、フォトボックス・・いつもわくわくするような提案をしてくれる戸上さんとともに、私たちのホームページは育ち、新しいお客様を獲得していきました。
そして2005年には北館を全面改装し、“静かな里山の、私だけの隠れ宿”をコンセプトに、個人旅行者を対象にした新しい宿「夢乃井庵 夕やけこやけ」をオープンさせることができたのです。ディレクターの松岡さんが「夕やけこやけ」のホームページづくりを担当、そしてさらに戸上さんから新しい提案がなされました。
その提案とは、オリジナルページからではなく、「一休.com」サイトでほぼ独占販売を行うというものでした。一休ドットコムと言えば高所得者をターゲットに、高級旅館のみを紹介しているエージェントです。そこにエージェントになってもらえるのは素晴らしいこと。でも一方で一休だけに賭けることへの不安もないとは言えず、私は難しい決断を迫られていました。けれど上田社長は自らの提案に自信満々の様子です。「よし、ひとつ賭けてみるか」。
そしてフタを開けてみれば、オープン前から予約は順調に埋まり、さらにマスメディアにも取り上げられて「夕やけこやけ」は順風満帆の船出をしました。そしてそれから程なく、一休.comの旅館部門人気ランキング1位まで獲得してしまったのです。

塩田温泉 旅館 夢乃井
専務
吉井 雅康 様
(よしい・まさやす)

インターネットの可能性に賭けた戸上さんと私の二人三脚は、おかげさまで勝利の旗を手にしました。現在、インターネットを通した予約は、全体の7割にまでなっています。なぜ、信じることができたのか。私はそれはインターネットというものが、直接エンドユーザーとつながっている媒体だからだと思うのです。
ネットを通して予約をしてこられるお客様は、私たちのことをじっくりと調べ、吟味し、わざわざ選んでお越しくださいます。それだけの労力を払ってくださったお客様に対して、私たちも真摯にならざるを得ません。それがよい循環となって、自分たちを育て続けてくれたのではないか。そしてそのことをあの頃の私は、漠然とながら予感していたのではないかと思います。
私たちの挑戦はこれで終ったわけではありません。ホームページを見て来て下さったお客様に、“私のとっておきの宿”として「夕やけこやけ」を末永く可愛がっていただけるように、さらに努力を続けていきたいと思っています。
私にとっての戸上さんは、気持ちはあってもそれをどうやって形にしていけばいいかわからなくて悩んでいた時に助けてくれた恩人。提案されることがことごとく「それをやりたかった」というものでした。すごい会社だと思います。これからもずっと傍らに居続けて欲しい、私は心からそう願っています。

塩田温泉、赤とんぼの里、夢前(ゆめさき)町、夢乃井。このキーワード、実は名刺交換をさせていただくずっと以前から存じていました。
旅行エージェントに勤めていた頃から、何故か印象的で記憶に残った夢乃井という旅館。吉井専務が「よその飯」を食べて夢乃井に帰ってこられたのとほぼ時同じく、私は戸上通信システム㈱に入社し、インターネットの、ホームページの、旅館の、初めてのお仕事として塩田温泉「夢乃井」様を担当させていただいたのでした。

夢乃井様はインターネット予約も、掲示板も、会員システムも、メルマガも、動画も、総フラッシュコンテンツも、ブログも、みーんな1番のりでした。お父様である社長の反対、現場の混乱、エージェントとの関係、不要なクレームの発生・・・。先駆者であるが故、私たちが知り得ない多くの壁にガンガンぶつかってこられたことと思います。でも、だから、今、「西の関所」と全国的に有名な関西の温泉地に評されていらっしゃるのです。
インターネットは1日にして成らず。
激動のインターネットという大きな海原を吉井専務と共に泳ぎ、共に成長してきたことは、何ものにも変えられない私たちの財産です。
前例のない環境で、前例を作り上げる。夢乃井様の存在あってこその我が社の真骨頂です。